第7章 今日からお世話になります
街灯のそばの暗がりの中で、私は一人、泣いた。
溢れる涙は、なぜか温かかったけれど。
すぐに外気にさらされて、あっと言う間に冷え切ってしまう。
誰にも見つからないよう、声を殺して泣くけれど。
それでも私は、きっと彼に見つけられてしまうのだろうなと、心のどこかで思っていた。
その思いは期待なんかではなく、ただ。
揺るがない事実でしかないのだ。
もっと、ちゃんと隠れないとという気持ちと。
早く戻って謝らなければという思いとが、ごちゃ混ぜになる。
どっちが大きいかなんて分からない。
心ばかりが焦って、仕方がない。
隠れる場所を探してきょろきょろと辺りを見回していたら、足音が聞こえて。
やっぱり彼は、私を見つけてくれた。
「ここに居たんですね。何してるんですか」
コートも羽織らないまま出てきた私に、和泉さんはただそう言った。
責めるでもなく、私が「何をしているのか」をただ聞いて下さった事で。
私は、心のどこかでほっとした。
きっと、寮に帰ったらこってり絞られるのだろうけれど。
今はそうしないで、私に寄り添おうとして下さるのが、なぜかとても嬉しかった。
流れていた涙をこすって、和泉さんに向き直る。
もう逃げたい気持ちは無い。
けれど、踏ん切りはつかなくて。
「すみません。まだ、私、帰れないです」
「それは、どうしてですか?」
コート持ってきましたよ、と私に差し出して下さる和泉さんに、私は軽く頭を下げて受け取った。
ありがとうございます、と言うと、どういたしまして、と返して下さる。
何でもない会話が、ただ心地良くて。
このまま時間が止まって、世界が終わってしまっても構わないと思ってしまった。
(けど、和泉さん達には応援して下さるファンの方達が着いてるから、本当にそうなったら困るんやろうなぁ)
そんな意味の無い空想が出てきて、自分でも笑ってしまう。
「何で笑ってるんですか」
「ちょっと、どうでも良い事を考えてました」
「どうでも良い事、ですか?」
「はい。もしも世界が終わったら、和泉さん達は困るのだろうな、と」
「あなたも困るでしょう」
「私は・・・・・・」
どうなんだろうと、少しだけ考えてみる。
渡されたコートを着ながら。
でもすぐに答えが出た。
「どっちでも良いですねー」
和泉さんは、眉根を寄せた。
