第7章 今日からお世話になります
「でも、確かに仰る通りですね。私、少し髪を乾かして来ます。二階堂さんは、彼女の話し相手になって差し上げて下さい」
「おう、行ってらっしゃいー。そういえば、今朝の事、ミツから聞いたな。お前さん、自分は仲間って言葉に似つかわしくない、って言ったんだって? えらく心配してたぞ」
和泉さんは、突然の兄の情報にぴくりと肩を反応させたけれど、そのまま何も言わずご自分のお部屋へと戻って行かれた。
私は、三月くんが心配してくれていた事に、やっぱりとごめんなさい、が胸に湧き上がる。
目線を少し下げると、二階堂さんの長い脚が、四角いテーブルの下に垂れ下がっているのが見えた。
二階堂さんはお酒も回って、リラックスできていて。
きっと、私の相談事さえなければ、充実した時間を過ごせていただろうに。
そう考えると、もう申し訳ない気持ちしか出てこなくて。
「二階堂さん、すみません」
「ん? 何がだ?」
突然の私からの謝罪に、二階堂さんは首を傾げている。
「こんな、私の暗い話さえ無ければ、皆さんと楽しい一日を過ごしてましたよね。なのに、私なんかの話に付き合わされて、嫌気がさしていませんか?」
本気でそう尋ねた私に、二階堂さんは眉根を寄せた。
「お前さん、自信が無いにも程があるぞ」
それは、私を否定している言葉なのだろうか。
と、つい思ってしまって。
逃げたい。
でも、逃がしてもらえるだろうか。
私は知っている、二階堂さんは頭が良い。
正確に言うならば、二階堂さんは頭の回転が早いのだ。
例え、私がこの場から逃げようと動き出したとしても。
後から追いかけてきて、私を部屋の外に引っ張り出してしまう。
それくらいの事は、朝飯前の人だ。
逃げるのは、得策じゃない。
でも――!
「おい、どこ行くんだよ!」
二階堂さんの声が聞こえる。
だけどその声に私は応えない。
応えられない。
リビングを出て、廊下を渡り、玄関まで真っ直ぐ来た。
部屋に逃げても逃げ場が無いなら、もう私にはこうするしかない。
そのまま靴を履き、ドアを開けて飛び出す。
ドアが閉まる直前に、リビングの方から待てよ! と聞こえた。
私は、滲む視界に足を取られないよう、必死に走った。
走って、走って、近くの公園も銭湯も通り過ぎた。
・・・・・・なんで、また逃げちゃったのかなぁ。
