第7章 今日からお世話になります
「お前さんが良くても、お兄さん達は良くないの。女の子一人で夜道は危ないでしょうが」
「でしたらワタシが」
意気揚々と胸に手を当て、声を上げた六弥さんだったが。
「ナギはもっと危ねえから却下」
三月くんにぴしゃりと言われ、肩をガクッと下げる。
「ワタシはただ、ハグしてイチカを温めて差し上げたいだけだというのに・・・」
「それが危ねえって言ってんだろ。一華の身にもなってやれよ。男に急に抱きしめられたら、びっくりしちまうだろうが」
「急に抱きしめたりなど! ワタシはゆっくりとイチカの手を引いて、そっと抱き寄せ、この腕の中へイチカを導くだけの事です」
「それがノーサンキューなんだよ!」
三月くんと六弥さんが、小さな言い合いを始めてしまった。
これは、喧嘩と呼んで良いものなのだろうか。
三月くんは、六弥さんを指差し、とても大きな声で叱っているけれど。
六弥さんには、三月くんの言いたいことが伝わっていないようで、何食わぬ顔をしている。
私は、そんな二人の様子に、どうして良いか分からず。
立ち尽くして、心ばかりがオロオロとしている。
「大丈夫だよ、一華ちゃん。二人とも、いつもあんな感じだから。早く行かないと、風邪引いちゃうよ?」
と、陸くんが教えてくれたが。
心配だ、とても。
困り眉で二人の言い争いを眺めていた私を、銭湯へ向かわせたのは。
やはり、少しの間だけ箸を置いた和泉さんの言葉だった。
「さっさと行って下さい。兄さんもお酒が入って、少し興奮してるんです。弟として少々恥ずかしいので、あなたは早く入浴を済ませてしまって下さいね。迎えに行くのが誰になるのかは、この分だと恐らく、しばらく決まらないでしょうから」
「分かりました。行って来ます」
恥ずかしい、とまで言われてしまえば、この場を立ち去るしか無い。
賑やかというべきか、騒々しいというべきか。
迷うところの食卓を抜けて。
私は銭湯へ真っ直ぐ向かった。
今日は中年くらいの女性が番台さんで、お金を置いて服をすぐ脱いだ。
浴室に入り、頭と体を洗うと、すぐに湯船の中に入る。
化粧はまだ落とさないが、お湯で多少崩れているだろう。
しかしそんな事はどうでもいい。
湯船のお湯は少し熱かったが、十分くらい浸かった。
そして浴室から出て新しい服に着替える。