第7章 今日からお世話になります
すげーびっくりした。
と、付け加えた環くんは、なぜか悲しそうな顔をしていて。
どうしてそんなに気にかけてくれるのか、私は不思議だった。
環くんは、いつも何を考えているのか私には分からない。
こういう人って、ミステリアスって言うんだろうけど。
環くんは、それとはちょっと違う気がする。
なんか、過去にトラブルか何かがあったりしたのかな。
過剰に心配してくれる彼を見て、そんな事を私は思った。
「環くん、本当にもう大丈夫だよ? そんなに心配されちゃったら、逆に不安になるよ。その気持ちはありがたいけど、今の私にはもう充分だから、ね?」
環くんに腕を伸ばしかけて、私はぴたりとその手を止めた。
ああ、まただ。
しゅん、としてる子を見ると、ついつい相手の頭を撫でてあげたくなってしまう。
抑えろ、抑えろ私。
腕をゆっくり下げようとすると、環くんが私の伸ばした手首を掴んできた。
あまりに急な事にびっくりしていると。
環くんが、私の手首に顔を近づける。
なんだなんだ?!
どうして良いのか分からず固まる私。
すると環くんが、じーっと私の手のひらを見つめている事に気付いた。
「手、濡れてる。泣いてた?」
と、唐突に質問された。
私はその指摘にドキリとしてしまう。
バレた。
と、思ったのだ。
どう誤魔化そうかと考える。
が、そんな猶予も環くんは与えてくれない。
「泣いてて、過呼吸、なった?」
私は、もう逃げられないと思った。
掴まれた手首を環くんは離してくれない。
「いちねえ、本当に、大丈夫?」
大丈夫じゃない。
と、私の心が訴えてきた。
全然、大丈夫じゃない、けど。
私にも、歳上の意地がある。
だから。
私は、にっこりと作り笑いをした。
取り繕うのは好きじゃない。
でも、今はそうすべき時だ。
「大丈夫、本当に」
嘘をついた。
環くんは、そっと私の手首を離してくれた。
「分かった。いちねえ立てる?」
先にすくっと立ち上がった環くんの顔を見ずに、私もゆっくり立ち上がる。
心配させたくなくて嘘をついたけれど。
これで、良かったのかな。
不安を顔に出さないようにするので精一杯で、環くんの顔を見られない。
私は、心の醜い人間だ。
環くんに心配されるのが、耐えられなかった。
これは善意じゃない。