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get back my life![アイナナ]

第7章 今日からお世話になります


 ペラペラ話して良い物なのだろうか。
 いや、そもそもペラペラ話せる程の情報を、私は持っていないのだけれど。
 どう返事をしようか、と考えていたら。
 後ろから、私が持っていた受話器を、誰かに取り上げられた。
「お電話変わりました、社長の小鳥遊です」
 振り返れば、誰も居なかったはずのそこには。
 いつの間にか、真後ろに社長さんが立っていて。
 社長さんは、メモ用紙とペンを私のデスクから片手でかき集め、電話応対もしながら何かを書くと。
 驚いて声も出せずに居た私に対しメモ用紙を、トン、トン、と指先で二回叩いて、見るように促した。
 大事な話だから少し外してほしい、と書かれていて。
 なるほど、新人の私にはまだ共有できない情報なんだな、とそこで理解する。
 姉鷺さんが私に、しきりに紡さんを相手に話したがっていたのにも、きっと深い理由があるのだ。
 私は姉鷺さんから見れば、まだまだひよっこの、信頼が無い、得体の知れない人間だ。
 私は今、この場にふさわしくないのだろう。
 無言のまま、社長に会釈をし、席を外す。
 事務室を出て、目の前の会議室に滑り込んだ。
 なんだか泣きそうで、でも泣かなければならないような事なんてどこにも無くて。
 なのに私は、会議室のドアを閉めると、こみ上げてきた物を吐き出さずには居られなかった。
 その感情が何なのか、自分でも分からない。
 溢れ出てくるこれの理由が分からなくて、分からないから怖いという感情が膨れ上がる。
 私は、ドアの少し横でうずくまった。
 声を殺していたら、しゃっくりが自然と出てきて。
 なぜ止まらないのかも分からなくて。
 社長さんのお電話が終わったら、すぐ仕事に戻らなきゃいけないのに。
 どうして私は、こんなに駄目な人間なんだろう。
 自己嫌悪の気持ちが強くなって、泣いてる自分だって大嫌いなのに。
 涙がどうしても止まらない。
 声を殺す事に精一杯で、気付けば呼吸が短くなっていた。
 ああ、これは、まずい。
 過呼吸というやつかもしれない。
 私は一気にパニックになった。
 そんな私の背中を、突然現れた誰かが、さすってくれる。
 どうやら、会議室の扉は開けられているようで、外から入ってきたその人が、私に気づいてくれたらしい。
 私は、さすってくれる手の動きに合わせて、呼吸のリズムを整える事に集中した。
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