第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
よく分からないけれど、気をつける事にしよう。
そんなこんなで、今日も新しい一日が始まった。
私が病み上がりだからか、うつ病と診断されたからか、与えられた仕事は簡単に終わらせられそうな物だった。
しばらくは自分の仕事をしていたけれど、資料整理や会議室の清掃なんて、案の定すぐに終わってしまう。
次の仕事を伺うと、タレントさんのスケジュール変更を、スケジュール表に入力し直す事とか。
宣伝ポスターの印刷ミスチェックとか。
そういう、誰にでもできる仕事ばかりしか貰えなかった。
風邪で休んでしまった分、がんばって働いてお役に立ちたいのは私の本音だけれど。
新人ゆえに難しい仕事や、責任ある仕事は回してもらえないのが事実。
淡々と仕事を一つ一つ終わらせていたら、もうお昼時になってしまった。
あまり役に立てず、手応えもなく肩が勝手に下がってしまう。
そんな私に、大神さんは感心するような顔で、声をかけてくれた。
「お疲れさまです。やっぱり、山中さんは仕事が早いですね。おかげで俺たちも仕事がやりやすかったですよ。ありがとうございます。どうぞ、お昼行ってきて下さい。午後も、その調子でアイドリッシュセブンの子達をよろしくお願いしますね」
嬉しかった。
そうか、役に立ててたんだ、あれでも。
そう思うと、肩は軽く、胸はつっかえが取れたように、安心する。
私はほっとして、大神さんのお言葉に甘えて、先にお昼を頂く事にした。
事務所を出てコンビニでサンドイッチを買う。
初出勤の日と同じ歩道橋の上に立って、お昼ごはんを食べた。
同じサンドイッチなのに、今日は味が分かる。
しっとりふんわりしたパンと、甘く口の中でほどけるような優しい卵の味。
美味しい、ちゃんと、美味しい。
サンドイッチを食べ終えると、すぐにまた事務室へ戻る。
「お昼、頂きました」
「おかえりなさい、山中さん」
事務室には、紡さんしかおらず、大神さんの姿は見えない。
大神さんもお昼食べにいったのだろうか。
「あの、山中さん、アイドリッシュセブンの皆さんの事、よろしくお願いします!」
紡さんは、私に頭を下げた。
やっぱり、担当アイドルを新人に任せるのって、不安だよね色々。
当事者の私だって不安だけど、紡さんは私と比べて四歳年下だ。
私よりもずっと不安だろう。
