第3章 尊い人
我に返ったのは、そこら中に散らばった未だ動く鬼たちの肉片を、朝日が全て灰にしてくれた時だった。
私は本能の赴くまま、素手で、斎巖と5体の鬼どもを殲滅していた。
「クソ、クソクソクソ!!!!俺が…この俺が、剣士でもないヤツに負けるなんて……恨めしい…あぁ…恨めしい……!!!!!」
私の右腕には首だけになった斎巖の顔面が貫通していた。
それが最期に何か言っていた。
でも、もうその言葉を理解しようとも思えなかった。
腕が貫いたそれがぼろぼろと消え、
私は力尽き、その場に倒れ込んだ。
体中、鬼か自分か判別のつかない血液で染まっていた。
「また無理をして…だめだろ?」と、稔さんに叱られてしまうな、と思った。
でも…
(み…のる……さん………どこ……)
鬼の攻撃を受けざっくりと斬られた私の肺は、
ヒュー――、ヒュー――と
音を立て、吸えない空気を取り込もうとする。
霞む両目で一所懸命稔さんを探す。
右前方に、彼の姿を見つけた。
私は彼のほうへ行こうと体を引きずろうとするが、折れた足とあばら、ひしゃげた左腕は、私の思うとおりに動いてくれない。
(稔さん……稔さん……!)
傍に行こうと、まだ動く右腕に力を入れるが、内臓も傷ついているのだろう。全身に激痛が走る。
血と胃液が混じった液が口から、鼻から出てきて止まらない。
「うっ……ふっ…うっ………」
あぁ…人間の気配がする。
事後処理部隊、"隠" の人たちが来てくれたのだろう。
私はふと、気を失ってしまった…