第14章 琴線に触れる
「…はっ………はぁ………」
は千寿郎を横向きに抱え、一刻もはやく林を抜けようと
木々の太い枝づたいに飛んでいた。
「千寿郎くん…っ、苦しいだろうけど、…もう少し、我慢してね…」
できる限り焦りを見せないよう、
は目下の千寿郎に優しく声をかけた。
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「すっかり遅くなってしまったわね、早く帰らないと槇寿郎さんが心配されるわ」
「わっ、本当ですね。でも俺、さんと芝居を観に行けてすごく楽しかったです!」
「あら、私もよ千寿郎くん。今日は千寿郎くんをひとり占めさせてくれてありがとうね。杏寿郎さんにもお礼を言わなくちゃ」
芝居小屋からの帰り道、と千寿郎は並んで歩きながら今日の感想を言い合っていた。
煉獄家に出入りの八百屋さんが、毎年芝居の招待券をくれるのだ。
ただ、槇寿郎はあまり外出をしたがらないし、
杏寿郎も今日は日中に用事が入ってしまい、一緒に行くことはできなかった。
「用事が片付いたら、直ぐに合流する」
とは言っていたのだが、やはり間に合わなかった。
は度々、袖を少し上げたりなどして
自身が身にまとっている着物を眺めては口元を緩めている。
「その着物、気に入ってくださったようで良かったです。すごく…、似合ってます」
千寿郎はそんなに気が付き、今日ずっと、言おう言おうと思っていたことを伝えた。
「え? …あっ、私ったら、今日一日ずっと嬉しくって…。この瑠火さんのお着物、とっても素敵なんだもの」
は今しがた緩みきっていた口元を隠すように両手を添え、千寿郎に笑顔を向けた。
この着物は、杏寿郎と千寿郎の亡き母、瑠火のものだった。