第20章 うんともすんとも
ー月胡ー
刀を振るうと、興奮してしまうのは分かっていた。
本丸へ帰って、水でも被って抑えようと思っていたのに…
宗近が鎮めてくれた。
…宗近、優しかった。
大切に、大事に触れてくれて。
結界を張ってくれたおかげで、誰にも気付かれずに済んだし。
その後は何もなかったように接してくれて…
ありがたかったけど、申し訳なくもある。
宗近の気持ちを知っているのに…
『あー…。』
自己嫌悪…
宗近にシテもらうくらいなら、一人でスレば良かったんじゃ?
『ゔー。』
小狐丸「どうなさいました?ぬしさま。」
『おー、小狐丸ー。』
宗近の休憩中にグダグダしてたら、執務室に小狐丸が来た。
『どうしたの?』
小狐丸「いえ。最近三日月殿の毛艶が良いのですが、ぬしさまに何か心当たりがないかお聞きしようと思いまして。」
毛艶って…
…うん、これは勘ぐってる訳ではなさそう。
純粋にそう思ってるんだな。
『ううん、心当たりはないかなぁ。』
小狐丸「そうですか…
三日月殿の機嫌はぬしさま次第なので、ご存知かと思ったのですが。」
『ごめんね。
…せっかく来てくれたんだし、毛繕いしようか?』
小狐丸「よろしいのですか!?」
『もちろん。縁側に行こうか。』
小狐丸「はい!」
縁側へ移動して、柘植の櫛で毛先から解いてゆく。
いつ触れても癒される…
小狐丸「…ぬしさま。」
『なぁに?』
小狐丸「実は…
先日の緊急出陣の時…本丸に戻った後のぬしさまから…三日月殿の匂いがしたのです。」
ー!!
動揺を隠すが、心の中は大慌てだ。
小狐丸「野生ゆえ、鼻がきくのです。」
これは…誤魔化せない、か。
宗近が誤解されても嫌だし。
『実は、ね。』
あの日の事を、小狐丸に話した。
小狐丸「そうだったのですか…。」
『うん…。』
小狐丸「わたしにも、覚えがあります。
最近ではもう、慣れてしまったのでないですが。」
そうなんだ!
私も慣れれば大丈夫になるかも。
…ていうか、慣れるほど私が出陣する事態がそうそう起きても困るか。
『あ、小狐丸。
この事は他言無用ね?
宗近が誤解されたり、責められたりするのは嫌だから。』
小狐丸「わかりました。
では、こうしましょう。」
『ん?』
小狐丸「次にそのような状態になられた時は…
私を呼んでください。」
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