第57章 絶対君主には成れずとも$ 中巻
俺は……
気付かないフリをしようとしていた。
俺には寄り添ってくれる白藤が居る。
でも、朔には……?
俺以外の知り合いも居ない朔が誰を頼りに出来るのだろうか。
「戦いの最中に考え事ですか?ナメられたものですね!」
ガキィンっ!
けたたましい音を鳴らしながら、鍔(つば)競り合いをする。
まあ、実際には朔は刀に近い構造の剣で鍔がある。
が、相手の手にある擬煌珠(フィロ)は人工的に造られたレイピアを模した細剣で、鍔と言うよりは取っ手の着け根と言うべきか。
火花を散らしながら、攻守を牽制し合っていると、騒ぎを聞き付けた警官達がやって来た。
警官隊に顔を見られるのは不味い。
が、どうやら相手も都合が悪いらしい。
チッ。
舌打ちと共にノアズアークの一団は紫煌楼から退きあげて行った。
かくいう俺も手短に女将に事情を説明し、話しを合わせてもらって事なきを得た。