第56章 新年用読切 新しい年を貴方と$
彼に手を強く引き寄せられて、男性から距離が出来た。
必死に彼の腕にしがみつく。
だって、本当に怖かったから。
「他人の女に目移りするような男はろくなモンじゃねぇよ」
彼の言葉は静かに、でも確実に怒気をはらんでいた。
このままこの場に留まれば、彼は隣にいた男性の腕を容易く折ってしまうかもしれない。
「天元さん…車に…」
花火を尻目に人だかりから抜け出て、飲みかけのグラスをスタッフに返し、二人で展望台から降りる。
「……戻るぞ?」
黙って頷き、彼の手を握り締める白藤。
失敗だった。
ただ少し、普段と違うデートをしたいだけだったのに。
彼女に震えるほど怖い思いをさせてしまった。
二人で車に戻る。
助手席に乗っている彼女の震える手を握る。
「白藤、すまない」
「ううん。天元さん、気付いてくれてありがとう」
「触られただけか?どっかに傷とか、つけられてないか?」
「大丈夫、ごめんなさい。両手が塞がっていて、気持ち悪いのに、抵抗出来なくて……」
「辛かったな。すぐ気付いてやれなくてすまない……」