第51章 里帰り$
「水柱さま?」
ならばせめて…
「藤姫殿」
「はい?」
「水柱様でなく、名前で呼んでは頂けませんか?」
「お望みとあれば。左近次様とお呼びしてもよろしいですか?」
左近次。
家族以外で久しく呼ばれなくなった名だ。
あの日、家族全員が惨殺される前までは……
「左近次様。失礼致しますね」
彼女は私の夜着を剥いで、そのまま一夜を共にした。
彼女に惹かれ、すがる程に、するりとかわされてしまう。
誰もが求め、恋い焦がれる。
そんな彼女を私が剣士として育てたあの子と……
スン。
匂いが変わった。
愛情、幸福、か…
「幸せに、な…」
義勇。彼女同様、孤独だったお前だからこそ補え合えたのだろうな。