第50章 リクエスト作品 煉獄外伝 貴方と共に$
不意にその手を掴まれる。
「……何故、泣いている?」
泣く?
誰が……?
自分の頬を伝う滴にようやく気づく。
涙……?
「……すまない、意地悪が過ぎた」
ぎゅっと抱き締められて、煉獄の胸元に顔を埋めると、トクン、トクンと心音が聞こえる。
自分のものとは少し違うその音に不思議と安堵する。
煉獄の方はといえば、急に泣き出した白藤を宥めるにはどうするのがよいか思考を巡らせた。
相手が千寿郎のような年の離れた弟のような存在なら、叱咤激励することも出来るが、相手は閨の最中の自分の恋人。
いや、先程夫婦の契りを交わした妻である。
とにもかくにも、白藤が不安に駈られることがないように、煉獄は彼女を抱き締めた。
常人とは違う冷たい体。
湯浴みの後だというのに、彼女の体は煉獄の体温よりも低い。
不意に自分の胸元に顔を埋めていた彼女が身動いだ。