第6章 藤に詩へば$(無惨裏)
「まあ、お兄様。歩いて来られたのですか?牛車は?お顔の色が…」
「今日は気分が良かったから、朝廷脇の藤棚へ行ってきたんだ。お前に似合うと思って…」
舞山が大事に持ち帰った一房の藤の花。
そのまま、髪に挿してやれば、白藤が気恥しそうにする。
「藤の花…私には勿体無いです」
「そんなことはない。お前は肌も白いから藤の花がよく映える」
「ありがとうございます」
それまでは些細なことが幸せだった。
本当に、この頃は、幸せだった。
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「ああ、薬師様。お待ちしておりました!」
知り合いの下男に早馬を頼んで良かった。
「白藤様。どうしたのですか?そんなに取り乱して…」
「舞山様が…血を吐かれて…」
動揺を隠し切れていない様子に薬師も事態を重く感じ、直ぐに処置へ取り掛かるべく、屋敷へ上がった。
「!、失礼しますよ」
「どうか、どうかお助け下さい…」
「必ず、お役に立ちます」