第6章 藤に詩へば$(無惨裏)
時は平安、京の都に彼女は居た。
もうすぐ、お兄様が帰っていらっしゃる。
久々の出仕ですもの。
帰って来たら、ゆっくり休んで頂かなければ。
主人の帰りを待ちながらも、彼女の心は踊る。
私のお兄様は眉目秀麗、頭脳明晰で朝廷でも有名だ。
産屋敷一族。
朝廷でも藤原と安倍と同じく由緒正しい家柄である。
お兄様の名は産屋敷舞山。
私はこの家で働く女房だが、舞山様より年が若いため、実の妹のように接して頂いている。
あ、申し遅れました。
私の名は白藤と申します。
お兄様の元には十二の頃からお仕えしております。
もう十八ですから、六年お仕えした事になりますね。
お兄様は幼少期から体が脆弱らしく、お屋敷にはいつも薬師が往診に来ております。
「お兄様、お帰りなさい」
「ああ、ただいま白藤」
出迎える時に微笑んでくれる、お兄様。
とても、柔らかく笑うので、私も自然と笑顔になる。