第43章 失意の夜$
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その頃。
「非番の日に呼び出されたかと思えば、冨岡さんが白藤さんに贈り物ですか?」
「悪いか…?」
「いいえ。少し意外だっただけです」
胡蝶は意味深に笑みを浮かべる。
「前とは違う物にしたくてな…」
「因みに前は何を?」
「ギヤマンの帯留めだ」
「ギヤマンですか。それはそれは…」
「何だ?」
「いいえ、別に…女性への贈り物ですからね、身に付けるものとか…小間物もですけど……紅なんてどうでしょうか?」
「紅?」
「口紅です。きっと白藤さんが付けたら今以上に綺麗になりますよ?色を選びましょうか」
「ああ」
胡蝶に促され、紅の色合いを吟味する。
「…なるほど、それぞれ色が違うのか」
「えぇ。白藤さんは色が白いですから…こちらが似合うと思いますよ?」
胡蝶の手に乗っている蛤の中には桜色の紅が入っていた。
確かに色素の薄い彼女の肌に合いそうだ。
「喜んでくれると良いですね」
「ああ…」
ほんの少しだけ唇を綻ばせ、冨岡は帰路へ向かう。