第74章 春待ちて、芽吹く想い
「これは……」
「愈史郎殿に描いて貰いました。君に受け取って欲しい。彼女もきっと、それを望んでいると思うから」
冨岡は白藤の絵を抱き抱えて涙を流す。
「君にはとても辛い戦いだったろう。……遺骨の残らない、彼女が居た証として受け取ってくれないだろうか」
「………勿体のうございます……」
冨岡はその絵を大事に持ち帰り、寛三郎の待つ屋敷へ帰る。
彼女が居なくても、闇ばかりではない。
たくさんの人間が彼女を覚えていてくれる。
「白藤に、また会えたな」
流れ続ける涙を拭いながら、冨岡は本邸の庭を見つめる。
彼女の亡き後、生えてきた藤の若木に幾つか蕾を見つける。
春を待つその花が咲くことを、冨岡は待つことにした。
藤が咲く頃に、また彼女に逢える気がしたから。
ー了ー