第76章 違えし縁
濡羽色の艶やかな黒髪に、ほんのりと白い肌。
彼女は美しく、可憐で……
産屋敷本邸でも働き者で器量良しと太鼓判を押されていた程の彼女は、名前と同じく、藤の花を好いている。
着物の色目にも藤の合わせがあり、彼女はそれを好んで着ていた。
内裏で彼女が十二単を纏うような、高貴な身分であれば、高官達がこぞって見合いを申し込むであろう。
私とて、体が丈夫であったなら……
白藤は私を兄と呼ぶ。
家族として、私を慕ってくれているからだ。
それは理解している。
だが、この胸の内にわだかまる、もやもやとした心が彼女を欲している。
いっそ、このまま。
彼女と二人で都を出るのも悪くないかもしれない。
だが、これ以上、彼女に無理を強いるのは、心苦しいのだ。