第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
カナヲの決死の覚悟を感じてか、禰󠄀豆子の瞼が震え出す。
これは、目覚めるのか?
その場にいた一同に緊張が走る。
だが、次に目覚めた禰󠄀豆子が人間に戻っているかどうかは分からない。
今の戦闘局面では、ただの人間では戦えない。
禰󠄀豆子の目覚めを待ちながらも、その戦闘力を期待してしまう。
この子達ばかりに期待をかけてはいけない。
分かってはいる。
だが………
鱗滝は低く唸る。
鬼の性が抜けきらぬようであれば、再び暗示をかけなければならないのではないかと。
果たしてその猶予があるのか。
そう、考えていた時だ。
「禰󠄀豆子!!」
屋敷が見えた段階で、カナヲは叫んだ。
気付いて貰えるように。
普段の彼女からは想像出来ない大きな声で禰󠄀豆子を呼んだ。
誰かが呼んでいる。
私を呼んでいる。
そう。私は、竈門禰󠄀豆子。
目覚めた禰󠄀豆子はすっくと起き上がるなり、駆け出した。