第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
無理もない。
相手が柱ですら適うかどうか分からない敵を前にしているのだ。
恐怖で足が竦む者も居ただろう。
悲鳴をあげることも出来ずに死んでいった者。
即死であるから痛みは一瞬であったのかもしれない。
でも、今鎹烏の目を通して見える惨(むご)たらしい惨状に。
辺り一面に広がる血の池に。
輝利哉の拳は怒りに震えるのである。
それでも、声を絞り出す。
それ以上に犠牲を出さないために。
「柱の到着を待て!!回復の為の食糧にされる!聞こえている者!!」
「輝利哉様……」
くいなの手が震える。
側に控えていたにちかもまた大勢の隊士の死に動揺する。
「皆一旦退キナサイ!!カァー」