第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
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キョロキョロと辺りを見回す。
「どうした、竈門少年」
「あ、すいません。今、善逸の声が聞こえた気がして……」
「我妻少年か?」
柱稽古でようやく名前を覚えたらしい。
黄色い少年呼びではなくなった。
「それはまぁ、いいとして。煉獄さん、どっちに向かいますか?」
「そうだな、猗窩座と戦ってから雑魚鬼にしか遭わない所を見るに、敵も数が減って来たのだろう。出来れば無惨のいる場所へ向かいたいが……君の鼻はどんな感じだ?」
「この城はどこも血の匂いがしていて……でも、多分……匂いが強いのは向こうだと思います」
炭治郎が指を指したのは無限城の中心部と思われる北東の方向。
「敵は鬼門にあり、か」
「そう、だと思います」
「どうした?歯切れが悪いな。竈門少年」
「なんと言うか、漠然と。とにかく害のあるものがこの先に居る……と思います」
「ふむ。君の五感は優れているからな。俺は君の気になる方へ行く」
「煉獄さん、良いんですか?」
「元より一度死にかけたんだ。どうせ死ぬにしても、少しでも前に進むさ」