第70章 氷中の激情
「ちゃんと居るよ。この顔がその証拠さ。そういえば、赤ん坊の君によく指切りの歌を歌ってあげていたなぁ」
『指切りげんまん』
伊之助の脳裏に朧気な記憶が甦る。
指切りの歌が聞こえる。
殺された?
俺の母親が、こいつに?
しのぶの姉ちゃんも、この鬼に……
「不幸だよねぇ、琴葉。幸せだった時はあるのかなぁ?きっと何の意味も無い人生だったよね」
「黙れ、外道!」
カナヲがこんなにも感情を顕にするなんて。
でも、確かにこの鬼の所業は許し難い。
「嘴平……」
戦闘中にこんな話、士気が削がれてもおかしくねぇ。
頼む、立ち上がってくれ。
「感謝するぜ。この巡り合いに!仲間の仇と俺の母親の仇!お前ぇは絶対ェ地獄に送ってやらぁ!」
伊之助が刃を童磨に向ける。
負けてなんかやるものか。
例え、生き汚いと罵られても、この鬼だけはこの手で首を斬ってやらなければ怒りが収まらない。