第67章 澱(おり)の中で$
「体を冷やすぞ……」
悩んでいると、槇寿郎が袿を手にやって来た。
「槇寿郎様……」
「藤姫よ。自身を言い訳にするな」
「そなたが"鬼"でも、鬼殺隊がそなたを護るのは回復の為だけではない」
「………」
「皆そなたを"人"同様に想っているからだ。愛情、友情、信頼……様々あれど、その感情に突き動かされるのが、"人"なのだ。その上で、そなたを護ろうとするのだ」
「私は……」
「護られる『価値』が無いか?」
槇寿郎の言葉にコクリと頷く。
「阿呆が……」
白藤の頭をクシャりと撫でる。
「そなたに救われた命が目の前に居るではないか。俺も、杏寿郎も、そなたが居なくては助からなかった命だ…」
「………っ」
ついに堪えていた涙が溢れ出した。
「ここは冷える。俺の部屋に来るといい……」
槇寿郎は白藤を抱き抱えると、するりと踵を返したのだった。
父の父たる威厳を見た気がして、杏寿郎はしばし、その場から動けなかった。