第67章 澱(おり)の中で$
猗窩座。
あの鬼と過ごした日の事を、白藤はよく覚えていない。
怪我をして、重度の飢餓状態だったから。
鬼相手の経験は初めてだったが。
谷底の深淵で。
出会ったその鬼を。
愛しいかの人に重ねてしまう程に、飢えていた。
何故、人との間に、子が出来ぬのか、不思議だった。
鬼を宿すと知っていれば、鬼殺隊は私を保護することは無かったかもしれない。
このまま、私も腹の子と共に槇寿郎様の手で葬って頂くことは出来ないだろうか。
さも無くば……
「……い」
「藤姫殿?」
「………たい」
"消えてしまいたい"。