第67章 澱(おり)の中で$
「藤姫殿。少し歩かないか?」
「そうしたいのは、やまやまですが……」
「俺が背負うから心配いらないぞ」
「………よろしいのですか?」
折角の申し出だ。
風にも当たりたいし……
「お願い致します……ただ、重いですよ?」
「なぁに。問題は無いぞ」
杏寿郎が白藤を背負い、裏庭に面した竹林に向かう。
「随分伸びましたね……」
「父と来たことがあるのか?」
「えぇ。一度。瑠火様とのお見合いの前に」
「そうなのか」
「あら、タマゴタケが……時期がもうそろそろ終わりですよね」
「タマゴタケ?」
「えぇ。あちらに生えている赤い茸ですよ」
「赤いのに、タマゴタケなのか?」
「玉子の殻の様な膜を破って成長するからですよ」
「ほぅ。藤姫殿は茸にも詳しいのだな」
「そうですか?それにしても……」
「ん?どうかしたか?」
「あのタマゴタケ、傘が広がっているのが槇寿郎様、背伸びをしているのが杏寿郎様、卵殻から顔を出しているのが千寿郎君に似てますね」
「………そうか?」