第65章 慟哭$
「……藤姫殿は祖母の事も……」
「えぇ。存じてますよ」
「その……祖母はどんな方だっただろうか?」
「篝様は笑顔の素敵な女性でした。何より寛寿郎様に向ける笑顔はとても可愛らしいものでしたし、私も篝様には大変良くして頂きましたから」
「そうなのか。俺は祖母には会えたことが無かったから、藤姫殿から聞けて良かった……」
「杏寿郎様」
「済まない。柄にもなく感傷に浸ってしまっ……」
ぎゅっ。
白藤が杏寿郎を抱き締める。
「大丈夫です。杏寿郎様は若いのですから、私の前でなら感情を抑えずとも良いのです」
「だが……俺は嫡男で……」
「悲しい、嬉しい、色々があって人でしょう?」
ポンと背中を叩いてやる。
辛うじて保っていた堰が破れるように、杏寿郎の背中が揺れる。
少しの間、白藤は杏寿郎の背を擦りながら、冴えざえと光る月を眺めていた。
ー了ー