第65章 慟哭$
「魅了」
白藤の姿が瑠火へと変わる。
「これでよろしいですか?槇寿郎様」
チクリと胸の奥が痛む。
期待をしないと決めているのに……
気取られぬように、心に蓋をする。
あたかも本物のように両手を槇寿郎に伸ばして囁く。
「槇寿郎様。お慕いしております」
偽りを顔に貼り付けて。
心の裡を悟られないように。
「瑠火」
もう、閨の際に『藤姫』とは呼ばれない。
「はい、槇寿郎様」
恥じらう様に目を伏せてから、上目遣いで彼の顔色を伺う。
そうして彼の反応を見て、瑠火になりきる。
髪の上を滑る槇寿郎の手が僅かに震えている。
熱の籠った視線の先に映るのは仮初の私。