第60章 谷底の社$
いつの間にか桶に水を用意した猗窩座に髪の毛を整えられる。
「このままでは、血が固まるからな」
「…………ありがとうございます」
血がこびりついている左のこめかみを念入りに洗われる。
猗窩座はゆっくり、出来るだけ丁寧に白藤の髪をほぐした。
この娘からは不思議な香りがする。
鬼が危惧する藤の香りに、この娘の独特な気配。
鬼に何故、藤の香り?
「十六夜、お前は藤の花が平気なのか?」
「え?えぇ。おかしいですか?」
何だ?
指先が痺れるような……
「十六夜、お前は何者だ?」
「……すみません、自分でもよく分かりません。ただ……私には、兄のように接してくれた方が居て……その人の病が治るようにと薬師様に日々薬を頂いていまして……日が経つにつれ、私の体に変化が出始めたのです……」
猗窩座は彼女の話に耳を傾けた。