第60章 谷底の社$
先ほど拝借してきた炭で魚を焼く。
ぷつぷつと皮が所々はぜ、脂がのった身がじゅうじゅうと音を立てる。
熱いと言いながら、十六夜はそれを満足そうに頬張っている。
猗窩座はその様子を静かに眺めていた。
人間だった頃の記憶はひどく朧気で。
あれは、誰だっただろうか。
顔や声を思い出そうとすると、霞がかかったように全てが煙にまかれてしまう。
「猗窩座様は食べないのですか?」
「俺はいい」
しかし、鬼が人を喰わぬとはな……
だが、他に代償は無いのか?
食べる量は普通の人間と変わらないようだが……?
「ご馳走様でした。猗窩座様は何か召し上がらないのですか?」
「あぁ」
確かに、最近あまり人間を喰ってはいないな。