第60章 谷底の社$
「猗窩座様」
「これを使えば料理ができるか?」
風呂敷に包まれていた中身を開くと、使い込まれた調理器具が出てきた。
「はい、問題ありません。あとは魚か山菜があれば……」
すぐに用意するなら魚だと猗窩座が縄を手に、川へ向かう。
ここにはこの時期、鱒(ます)がよく泳いでいる。
手づかみで三匹。
猗窩座は手早く鱒の尾を縄で縛り、社へ持ち帰った。
米はないが、魚はある。
焼きさえすれば、食えるだろう。
そう考えて、猗窩座は歩を進めた。
普段ならやらない手間をかけてまで、この鬼を世話をする謂われは猗窩座には無い。
そのことに違和感すら抱かない。
まるで、もとから彼女を庇護していたかのように。