第60章 谷底の社$
「お前…」
「あ、すみません。勝手に上がり込んでしまって……」
彼女は藤色の瞳をこちらに向けた後、そのまま俯いてしまった。
「何をしていたんだ?」
「えっと、色々……分からなくて。ここが汚れていたので、掃除を…」
彼女が掃除をしていたのは竈。
「お前、鬼なのに何か作るのか?」
猗窩座は疑問をそのまま口にした。
「はい。私は……人を喰らいません、ので…?」
「いや、俺に聞かれても……」
妙な鬼だな。
「すみません……」
「何か用意するものはあるか?」
「え?」
「お前が食事に必要なモノは?」
「必要な、モノ……」
『鮭大根が食べたい…』
『そればかりじゃダメですよ?』
ほんの少し、脳裏に掠めた声。
「どうした?」