第2章 今宵、君に酔う
『匠、また頭痛い?保健室行く?』
『理緒ちゃん、甘いの』
『はい、チョコレート』
俺が弱ければ、理緒は躊躇なく笑いかけてくれたし。
心配で、そばにいてくれた。
理緒は、弱いものに優しい。
『ねぇ理緒、見て見て、僕乗れたよ!』
『あーちゃん!大丈夫?怪我してない?』
『……理緒、僕乗れたよ、自転車』
『匠は凄いね。みんなにも教えてあげて?』
『ー………』
自転車に一番早く乗れた俺じゃなくて、理緒はなかなか乗れない近所の女の子に駆けよっていった。
『すごーい匠くん、また100点だよ!』
『いつも匠は凄いね』
理緒に誉められるのは単純に嬉しかったし、頑張ろうって思えた。
だけど。
『ごめんね匠、かずくんの勉強見てあげるよう先生に言われたの』
『え…』
『匠は頭いいから、大丈夫でしょ?』
はっきり言って学校の勉強は俺にはつまんなすぎて。
母親の会社でコンピューターと遊んでいる方が何倍も楽しかった。
計算を間違えればコンピューターはエラーを起こすし、正しければ正常に作動する。
学校なんて、行かなきゃいけない理由がわからなかった。
ただ、理緒がいたから。
それだけの理由で楽しくもない学校に、毎日通っていた。
理緒が他の子にいってしまったら、学校なんて行く意味がない。
だから、決めたんだ。
理緒に甘えてもらうんじゃなくて、俺が理緒に甘えればいいんだって。
案の定。
この戦略は完璧にうまくいき。
中学生になり、試験でほぼほぼ点数のない俺に。
理緒はずっと付きっきりでいてくれた。
小学生の時、逆上がりが出来ない俺に真剣に教えてくれた。
高校受験も、大学受験も。
理緒はずっと俺のそばから離れなかった。
『これじゃ理緒ちゃんと同じ高校なんて、無理だよ絶対』
『大丈夫だよ。匠はやれば出来るんだから』
『いつも迷惑かけてごめんなさい、理緒ちゃん』
『気にしないで。弟の面倒みるのは、姉の務めでしょ?』
弟。
作戦はうまくいったけど、弟の枠から抜け出せない。
抜け出せないなら。
理緒に、意識してもらうしかないと思った。
高校一年生。
作戦開始。