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今宵、蜜に溺れてく

第1章 今宵、蜜に溺れてく





「………満月、」



夜。
そろそろ窓を開ければ肌寒く感じる季節。
出窓の縁に腰を落としながら、夜空を見上げてひとりごちた。







カチャ







家族もみんな、寝静まった23時。
小さな音を立てて、扉が開く。




「理緒」




愛しい彼の声に、笑顔で応えれば。
彼が、月明かりの下右手を、差し出す。
その手を取り、目の前で跪く彼を視線だけで、追った。



「理緒、愛してる」




恭しく手の甲にキスをするその様は、まるで騎士(ナイト)みたいで。
胸が、熱くなる。



「おいで、理緒」



ああ、そうだ。
そうなんだ。
彼の言葉は、毒。
仕草や行動全てが、罠なんだ。
彼の一言一言に、胸が熱くなる。
彼の行動に、溺れてく。
捕らえられたらもう二度と、逃げられない。
この視線から。
唇から。
ぬくもりから。


彼から。


逃げる術など存在しないんだ。
解毒剤は、ない。
1度含んだ毒は神経に入り込み、脳まで犯す。
あとはもう。
溺れるのみ。




「かわいく啼かせてあげる、お姫さま」






満月だけが見てる、今宵。


わたしは今日も、彼の蜜に、溺れてく。






                【完】
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