第1章 mirrorハプニング！

「グリム、取り敢えず明日から頑張ろ？」
「うぅ。嫌なんだゾ」
「でも、雑用をすればこの学園に滞在できるんだよ。毎度放り出されなくて雨風は凌げる寮で暮らせるし…グリムの好きなツナ缶も沢山は無理でも用意できるよ。それでも嫌…？」
「ツナ缶……ぶな"ぁ。わかったんだゾ…」

耳と尻尾がへなりと垂れている様子がどことなく哀愁漂う姿で少し申し訳なくなったけど、ここで説得しないとグリムはすぐに逃げ出しそうだから言質は取っておかないと。

外でホコリを払ってきたシーツで寝るのは少し抵抗があるけど、掃除をする前の埃に塗れて少し払うだけでくしゃみが出てしまうシーツに寝るよりはマシである。


「明日は早くなりそうだし私はもう寝るけど、グリムはどうする？」
「オレ様もニンゲンのベッドで寝てやる。感謝して欲しいんだゾ！」
「感謝…？あぁなるほど………ありがとうグリム。それと私のことはニンゲンじゃなくてユウって呼んでよ」


気が向いたら呼んでやると早々と布団に潜り込むグリムに思わず笑みが溢れた。何というか生意気なのにこういうところ可愛いなって思っちゃうなぁ。人間じゃないけど誰かが側にいてくれるのがこんなに安心することだとは思わなかった。自分でも気づけなかった心細さをグリムが感じとって私の側にいようとしてくれたのが嬉しくて、胸があったかくなったように感じた。

乗るとギシギシとなる古いマットレスの上にねっ転がって今日の出来事を思い返す。

今日は本当に沢山のことが起こって目が回るような一日だった。何が起こっているのか分からないうちに元の世界に戻れないのが分かって、しかもここは私が遊んでいたゲームの物語の中。
嬉しいような悲しいような…ちゃんと物語や登場人物を覚えていられたら客観的にこの世界を楽しめただろうに……。


それに学園長が呼んでいた棺の形の扉。


『今までの世界に別れを告げ、新しく生まれ変わる』


棺について聞いた時、学園長がそんな風に話していたのをふと思い出した。あれが本当に棺だったら……。
そんな想像が頭を離れなかった。


「本当に私、帰れるのかな…？」

不安で押しつぶされそうな中、側にいてくれたグリムの存在が心強く思え、そっと目を閉じた。

明日からは大変な一日が始まることを予感して。