第29章 第29話 記憶
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ここは、何処だ?
近くでさらさらと水音が聞こえる。
川か?
気が付くと側に女性が立っていた。
「ごめんなさい、貴方に全て背負わせてしまって…」
女性は俯いて泣いている様だった。
千歳「あの、泣かれても…」
私はこの女性を知らない。
「ごめんなさい。困りますよね、私なかなか空気読めなくて…」
千歳「いや…」
そういう訳でもないんだが…
改めて見てみると女性は私と雰囲気が似ていた。
彼女の方が小柄な体型だが、横顔なんかは割りとそっくりなんじゃないだろうか。
違うところといえば、長い黒髪に付けている花柄の髪止め。
「私も審神者なんです」
千歳「審神者…」
「でも、私は自分から役目を放棄してしまったんです。とても身勝手な方法で、きっと皆を傷つけた」
固く握りしめている彼女の手をやんわり包む。
千歳「人にはそれぞれ事情があります。だから、私にはあなたが役目を放棄したのだとしても、責めるつもりはありません。これからどうしたいのかちゃんと伝えてあげられればきっと理解してもらえますよ」
「ありがとうございます。貴方は強い方ですね」
千歳「まさか。私は自分を叩き上げて強くなった振りをしているだけ。所詮は意地ですよ」
「貴方の様な方なら良い主になれるでしょうね」
小さく笑う彼女はとても愛らしい笑顔をしていた。
私はその光景を静かに眺めていた。