第84章 新たな拠点、新撰組
「とりあえず、そいつの…」
「失礼しまーす。」
彼女のセリフを遮るかの様に、ざっと断りもなく障子が開いた。
そこには、少し驚いた様にレンを見る沖田が立っていた。
「総司…!てめぇは、いつもいつも…!声かけてから入れっつってんだろうが!!」
「だから、声かけたじゃないですか。」
「入った後で声かけたってしょうがねえだろうが!!」
「そうでしたね、すみませんでした。」
まるで棒読みである。
「てめぇ…!」
「そんなことより君さ、さっきまでここより反対側にいたのにどうしてここにいるの?」
沖田は面白いものを見つけた猫の様に、うずうずとした様子を隠しもしないでレンに問いかける。
その間土方は、山南と近藤に宥められていた。
「さあ…、どうしてでしょうか。」
面倒な奴に見つかった、というのがレンの感想だった。
土方達に話したのなら、この際沖田にも言っても構わないのだが、沖田には何となく臍を曲げたくなる。
「へえ…、言わないつもり?じゃあ、昨日の氷は何て言おうかな。」
「それについて一つ物申したいのですが、伊藤甲子太郎という人は既に知っている様子でした。貸しでも何でもなくなってますよね?」
貸しというからには徹底して隠してほしかった、というのがレンの言い分である。
「それについては僕にできる限りの火消しはしといたよ。でも予想以上に伊藤のネズミが多くてね。手が回らなかったんだよ。でも、火消しすらしなかったらもっと騒ぎになってたと思うんだよね〜。」
「随分とまあ…、中途半端な貸しですね。」
「火種を戻そうか?」
沖田の言葉に、レンはげんなりしながらため息をつく。自身にも落ち度があるが故にこれ以上は強く出れない。
丁度、影分身を戻そうと思っていたこともあり、彼女はすっと障子を閉めてから、影分身を出して見せた。
「こういう術を出して囮にしました。だから私は向こうへは行っていません。このことは他言無用でお願いしますね。」
レンはそう言って、影分身を解いた。
今頃は外を彷徨いている影分身にも情報が伝わったことだろう。
「ふーん…、成程ね。君って退屈しないよね。」
沖田はそう言って、断りなく輪に入り込む。