第84章 新たな拠点、新撰組
「そうですねぇ…、線は細いし、声は高い。それに小柄だから、かしら。」
「そうですか。てっきり誰かに聞いたのかと…。」
そう言ってレンが伊藤を見ると、彼は片眉を僅かにぴくりと動かした後、取り繕うように笑顔を浮かべた。
―予め、聞いてたな。
それは、土方達の中に間者が混じっている事を意味する。
「しかし、変装とは難しいものですね。自信があったんですが見破られてしまいました。」
レンもにこりと笑いながら相対すると、ふふっと伊藤は笑う。
「それは残念ね。人の目を欺くのは容易なことではないんですよ。特にあなたの場合はご自身の線の細さをしっかり鑑みた方がいい。」
「そのようですね。今後の参考にさせてもらいます。」
レンが心にもない事を言うと、伊藤は満足そうに微笑んだ。
「可愛らしい方だこと。素直でよろしいですね。」
「ありがとうございます。」
「さて、氷室さんがどういう方なのか分かったことだし、私は先にお暇しますね。氷室さん、今度お食事でも一緒に如何?」
「えぇ、是非に。」
「ふふっ、本当に可愛らしい方だこと。その時を楽しみにしていますね。」
そう言って目を弓形に細めて、伊藤はその場を後にする。
「お前、よく平然と話してられるな…。」
ぼそっと呟いた土方に、レンは黙ったまま肩をすくめて見せた。