第7章 007
立てた二本の人差し指を、翔太郎からの合図だと思った健太は、スッと息を吸い込むと、
「11時頃だったと思う。多分だから、正確なこと分かんねぇけど、大体そんなもんだった筈だ」
ぶっきらぼうな口調はそのままに、真っ直ぐに自分を見つめてくる成瀬に向かって言った。
健太にしてみれば、一切ぶれることなく向けられた視線が、まるで自分を疑っているようにも見えたのかもしれない。
尤も、実際成瀬はこれまでの経験上、弘行は事故死や自然死などではなく、他殺だ判断しているのだから、当然「000号室」にいる“誰か”が弘行殺しの犯人だと信じて疑わない。
それを健太は、持ち前の野性的勘で見抜いたのかもしれない。
「そうですか。では、あの方も一緒に?」
成瀬の視線が、翔太郎に向けられた。
でもそれはほんの一瞬のことで、成瀬はすぐに健太の方に向き直った。
「まあ…な」
「では、お二人にお聞きします。お二人がこの部屋に入られた時、又は“入ろうとした時”誰か不審な人物を見かけたり、擦れ違ったりはしませんでしたか?」
「そ、そんなこといちいち覚えてねぇよ。なあ?」
突然同意を求められ、翔太郎は一つ大きく頷くと、
「多分、誰とも擦れ違わなかった…と思う、です…」
いかにも自信なさげな口調で言った。