第7章 007
「お言葉を返すようですが社長」
口元だけに笑みを残し、真剣な…と言うよりは、冷徹とも見れる視線を鮫島に向けた。
「な、なんだ…」
「ここにいる皆さんは今、殺人事件の容疑者です。お立場は分かりますが、今はそれに拘っている状況ではないと思うんですが…」
「確かに…」
成瀬に同調するように、榎本がピクリとも身体を動かすことなく頷く。
それには鮫島も唇を不満げに尖らせるしか出来ず…
「わ、分かった…」
鮫島は一人がけソファの上で膝を抱えると、膝の間に顔を埋め、拗ねた素振りで下唇を突き出した。
その姿は最早、社長と言うよりは、ただの駄々っ子に見えなくもない。
翔太郎は吹き出しそうになるのを、両手で口を抑えて堪えた。
「では、続きを…」
成瀬が再びペンを手に取り、身体ごと頑として仏頂面を崩さない健太に視線を向けた。
「皆さんにもお聞きしていることですが、貴方がこの部屋に入ったのは、大体でかまいませんが、何時頃ですか?」
成瀬の表情は、口調と同じ、柔らかな物に戻っている。
「俺がここに来たのは…」
健太の視線が、一瞬翔太郎に向けられる。
すると翔太郎は、クルリと背を向け、背中で結んだ両手から、人差し指を二本…ピンと立てた。