第7章 007
「お、お、俺か?」
成瀬に微笑みを向けられた鮫島は、自分自身を指で差した、キョロキョロと忙しなく周りを見回した。
まさか部屋の主である自分が、いくら捜査の協力のためとはいえ、アリバイを問われるとは思っていなかった鮫島の顔には、明らかな困惑の色が浮かんでいる。
「お、俺は…、その…なんと言うか、アレだ…」
「“アレ”とは?」
「だ、だから! “アレ”は“アレ”…だろうが!」
「困りましたね、“アレ”ではちょっと…」
しどろもどろになりながら、意味の分からない事を繰り返す鮫島に、成瀬は微笑みを絶やすことなく、至って冷静に返す。
「鮫島さん、それから皆さんも。私は皆さんを疑っているわけではありません。皆さんのアリバイを伺っているのは、もしあのご遺体が他殺体として扱われた場合、当然ですが、皆さんは警察の聴取を受けることになります。最悪の場合、容疑者として扱われることにもなりかねません。人間というのは、なかなかどうして弱い生き物です。警察の厳しい聴取に耐えきれず、虚偽の証言をしてしまうことも、可能性としてはゼロではありません。そうならないためにも、事前にお聞きしているんです」
数々の裁判を経験して来た成瀬の言葉は尤もで…
その場にいた者全員が、互いの顔を見合わせ、ゴクリと息を飲んだ。