第7章 007
榎本は猫背をピンと伸ばし、俯かせていた視線を上向かせると、
「そうですね、まず鮫島社長から連絡を貰ったのは、今から丁度1時間前のことで、私がここに到着したのは、今から丁度50分前です」
自身の腕時計で時刻を確認しながら、早口で捲し立てるように言った。
「成程…。でも、連絡が入ったのが1時間前で、到着が50分前ということですが、随分早かったですね?」
「ええ、鮫島社長から連絡を貰った時、定期点検のため、このホテルのセキュリティルームにいましたから」
言いながら榎本は、鮫島に同意を求めるように、ゆっくりと視線を送り、鮫島もそれにウンウンと何度も頷く。
「分かりました。因みに、そのセキュリティルームはどこに?」
「地下です。警備室のすぐ横の階段を降りると、従業員用の休憩室があって、その奥にセキュリティルームがあります」
「そうですか。では榎本さん、貴方がその時刻に来訪されたのを証明出来る方は…」
「それなら、警備室の警備スタッフに聞いて頂ければ…。それから、セキュリティルームにも、二人程警備スタッフがいたので、確認してくだされば分かるかと思いますが…」
「成程…。では、その件に関しては後で確認することにして…」
榎本の聞き取りに一旦終止符を打った成瀬は、ゆっくりと視線をホテルオーナーであり、この部屋の住人でもある鮫島へと向けた。