第7章 007
現状維持のためか、成瀬は弘行には触れることなく、目視だけで遺体の状態を確認すると、
「詳しいことは鑑識の判断によりますが、どうやら病死の類いでないことは間違いなさそうですね」
鮫島を振り返ることなく言った。
「ってことは何か、殺されたってこと…なのか?」
「そうですね。僅かにですが、首に擦過傷もあることですし、恐らく紐状の物で首を絞められたんではないかと…」
あくまで“仮定”ですが、と付け加え、成瀬は一瞬辺りを見回したかと思うと、翔太郎と健太が膝を抱えて座っている、丁度死角になっている部分に視線を止めた。
「清掃員さん、申し訳ないのですが、手袋を貸して頂けませんか? まさか必要になるとは思わず、置いて来てしまったので…」
パーティションの向こうからかけられる声に、翔太郎は自身の手元に視線を向け、
「手袋って…、これで良いのかな?」
隣で同じように膝を抱える健太をチラリと見たが、
「良いんじゃねぇの?」
さも面倒臭そうに言い捨てられ、翔太郎は小さな溜息を吐き出すと同時に肩を竦め、
「こんなんしかありませんけど、これで良かったら…」
いつの間にか翔太郎達のすぐ近くまで来ていた成瀬に、自身の手から抜き取ったゴム手袋を差し出した。