第7章 007
「お久しぶりです、鮫島社長」
「やあやあ、良く来てくれたね。まあまあ、かけたまえ」
ソファに座ったまま、それまで一切表情を変えることのなかった鮫島が、成瀬を前に情けなく歪む。
国内外にあるいくつものホテルやレジャー施設を束ねる鮫島も、天使の弁護人成瀬を前にすると、どこにでもいるような、“普通”の男になってしまうようで…
「急に呼び出したりして済まなかったね」
「いえ、鮫島社長からの連絡ですから…。それで今日はどんなご要件で?」
常に微笑みを絶やさない成瀬の口調は、榎本程無感情ではないものの、至極淡々としている。
「実は、アレなんだが…」
言いながら鮫島は、パーティションで仕切られたベッドルームを指で差した。
あえてそちらを見ないのは、いくら鮫島であっても、謎の死体の存在は不気味に感じているからなのだろう。
「失礼します」
成瀬は一言鮫島に断りを入れると、下ろしたばかりの腰を上げ、ゆっくりとした足取りで、パーティションの向こう側へと足を向けた。
そして死体にかけられた布団を捲ると、弘行の死体を見下ろし、まじまじと見つめた。
「この人物に心当たりは?」
弁護士と言う職業柄、こう言った状況には慣れているのか、死体を目にしても取り乱すことも、顔色を変えることもなく、実に冷静だ。