第1章 001
「かもしんねぇけど…。つか、金額の問題じゃねぇだろ…」
そんな簡単な計算が出来ない健太じゃないから、自分の手元に幾ら舞い込んで来るのかくらいは、翔太郎に言われるまでもなく理解は出来るが、それだけに失敗した時のリスクを考えると、やはり二つ返事で受け入れられる程簡単なことではない。
「やるならお前一人でやれよ。悪いが俺はその話には乗れねぇ」
健太はキッパリと言い放つと、火をつけたばかりの煙草を地面に落とし、ブーツの踵で踏みつけた。
そして「じゃあな」とだけ言ってその場を立ち去ろうとした。
ガキンチョの相手なんて面倒くせぇし、童謡が歌いたいわけでもないけど、せっかく掴んだチャンスを、こんな馬鹿げたことでふいにするわけにはいかねぇ…
翔太郎には悪いが、これ以上関わらない方が自分のためだ、と自分に言い聞かせていた時だった。
「俺さぁ、知ってんだよね」
狙ってなのかどうなのか、翔太郎の蹴った小石が健太のブーツの踵に当たり、健太は足を止めた。
「知ってるって何をだよ…」
いかにも面倒臭そうに溜息を混じえながら、健太は翔太郎を振り返った。
瞬間、翔太郎はシメタとばかりに唇の端を不適に持ち上げた。