第1章 001
「健太さあ、店の金くすねてるだろ」
言われてる健太はドキッとする。
それでも動揺を気取られないよう、どうにか平静を保とうとする健太だが、元々嘘をつくことが苦手なこともあってか、表情は自然と強ばってしまう。
ましてや翔太郎は幼馴染だ、そう簡単に隠し通せる筈もない。
健太は諦めにも似た気持ちで息を一つ吐き出すと、眉間に深い皺を寄せ翔太郎を睨みつけた。
「だったらなんだ。何が言いたい」
若干顎を突き出し気味で言うと、健太はしめたとばかりに口元を綻ばせ、
「だからさ、黙っててやるから、この話乗らない?」
革ジャンの肩に腕を回し、健太を乱暴に揺さぶった。
「だから俺は乗らねぇって…」
「俺知ってんだよね…。健太さあ、金くすねたの、一回や二回じゃないだろ? 良いのかなぁ、親父さんに全部バラしちゃっても」
健太に言い訳をする間も与えることなく、翔太郎は更に追い討ちをかけた。
当然、健太の顔は薄暗い街灯の下でも分かる程に曇る一方で…
その顔を横目で見ながら、翔太郎は携帯に送られて来たメールの内容を頭の中に思い返していた。
勿論、翔太郎が思い浮かべるのは、成功するしないは関係なく受け取れる100万円のことばかりだが…