第1章 001
ところが、だ。
翔太郎の耳には健太の言葉など、全く届いていない様子で…
「でさ、一応今後の予定なんだけど…」
携帯片手に、何やらブツブツと話し始めた。
それはまるで、健太が翔太郎の誘いを受け入れたと決め付けるような口調で…
「お、おい、俺はまだやるとも何とも…」
健太は思わず顔を引き攣らせ、呆れ口調で訴えるが、既に実行計画で頭が一杯の翔太郎にとっては、どこ吹く風と言ったところだろうか、閃いたとばかりに顔をパッと上げると、手元で携帯電話を操作してから、
「いちいち口で説明すんのもなんだから、メールで送ったから」と、健太に向かって白い歯を見せるから、健太の肩も下がる一方で…
健太は一つ息を吐き出すと、仕方なく翔太郎から送られてきたメールを開いた。
そこには依頼人の名前と、誘拐する相手の名前、それから誘拐後に監禁する場所の指定まで、事細かに記載されていて、おまけに顔写真まで添付されていて…
翔太郎はスマホを手にした健太の手元を覗き込むと、自分の携帯電話よりも大きな画面に表示された写真を食い入るように見つめた。
「この人がどんな人かは知らないけどさ、成功したらプラス100万ってことはさ、一人100万貰えるんだよ? こんな楽な仕事ないよ…」
着たくもない怪獣のスーツを着て、時には殴られ蹴られ、身体中痣だらけになりながら得られる報酬と比べたら、100万円という金額は魅力的に違いない。