第7章 007
…が、一度あることは二度あるわけで…
ドアを開けた瞬間、柔らかな…でもどこか不気味な微笑みと、スーツの襟元にキラリと光る金のバッチに、足止めを食らってしまう。
顔に見覚えはあった。
若いのに、天使の微笑みと確かな腕で無罪を勝ち取ると噂の弁護士、成瀬領だ。
二人は榎本を前に、同時に天を仰いだ。
翔太郎に至っては、ゴム手袋を嵌めた手で目元を覆い、口元だけを僅かに動かすが、その声がすぐ横にいる健太の耳にも、榎本の耳に届くことはない。
「鮫島社長はおいででしょうか」
表情と同じ、柔らかだけど冷たさも感じさせる声で言われ、健太は首だけを動かして答える。
その間にも、榎本の背後でドアは閉まり…
再び部屋から出るタイミングを逃した二人は、榎本が鮫島の元へ向かう背中を見ながら、その場にしゃがみ込んだ。
リビング部分からは死角になっているのだから、こっそり出ようと思えば出られなくはない状況ではあったが、あえてそうしなかったのは、二人の脳裏に“諦め”の文字が浮かんでいたから…なのかもしれない。
尤も、健太に関して言えば、方法を模索しつつ…ではあったのだけれど…
「なあ、どうする?」
「知るか…。なるようにしかなんねぇだろ…」
「そうだね…」
二人は顔を見合わせることもなく、同時に肩を落とした。