第7章 007
「…っだよ、いきな…、んぐっ…!」
バスルームに入るなり、腕を掴んだ翔太郎の手を払った健太の口を、咄嗟に翔太郎の手が塞ぎ、立てた人差し指を口元に宛てた。
そして徐にシャワーコックを捻ると、シャワーヘッドを空のバスタブへと向けた。
メインルーム程広くはない浴室内は、すぐに湯煙で満ち、翔太郎は漸く健太の口を塞いでいた手を緩めた。
「なんなんだよ、一体…」
余程きつく押さえつけられていたのか、健太は口元を腕で拭うと、呼吸同様、鼻息を荒くした。
「ごめんごめん。っていうかさ、このタイミングで弁護士とか、まずくない?」
それも、相当なやり手だと称される程の弁護士となれば、尚のことだ。
「このままだと、俺達…。ねぇ、どうしよう…」
湯煙立ち込める中、ウロウロと歩き回り、頭を抱えてしゃがみ込んだ翔太郎を見下ろし、健太は小さく息を吐き出すと、翔太郎の目線の高さまで膝を折り、青いツナギの襟元を掴んだ。
「どうしようじゃねぇよ。昔っからそうだ…、お前に付き合うとろくな事がねぇ…」
報酬に目が眩んだことも忘れて、随分な言いようだが、実際そうなんだから仕方がない。
翔太郎は、下を向いたままで小さく「ごめん…」と呟くと、キャップを脱いだせいで落ちた前髪を掻き上げた。