第7章 007
どう理由を付けて大野をこの場に留めようか…
二人は顔を見合わせた。
すると、二人の懸念を知ってか知らないでか、
「お気持ちは分かりますが、今この場を離れることは、状況から判断して不可能かと思います」
榎本が、眼鏡の奥の視線を弘行に向け、感情なく言い放った。
「え、で、でも、商談が延期になったことを、会社に伝えないといけないんだけど…。困ったなあ…」
言葉とは裏腹に、ふにゃふにゃと笑う大野の顔からは、とても困窮してる様子は窺えない。
勿論、心の内まで見透かせるわけではないから、表面上のことだけなのかもしれないけれど…
「えっと…、じゃあいつになったら…?」
「そうですね、少なくとも後二三時間は難しいかと…。そうでしたよね、鮫島社長?」
「ああ、そうだな」
「そ、そんなに…?」
窓が無いため、外の景色がどうなっているのかは分からないが、スマホの時計を見る限りでは、そろそろ日も落ちかけて来る頃だ。
「何しろ忙しい男だからな、彼は…」
「か、彼…って?」
鮫島と榎本の登場だけでも計算外だったのに、この上また一人増えるとなると、更に面倒なことになる。
二人は顔を見合わせると、同様に困惑の表情を浮かべた。