第7章 007
「はい、はい、あー、はい…」
仕事の電話なんだろうか、大野はスマホを両手で持ち、頭をペコペコと何度も下げる…
「ああ、ですよね…。申し訳ごじゃ…ごじゃいましぇん…」
が、寝起きのせいか、呂律が上手く回っていない。
「はい、はい、はあ…、ではまた…」
電話を切った大野は、深い溜息と同時に肩を落とした。
そして、
「今月も最下位か…。まあ、しょうがないよな…、うん」
自虐的に呟いてから、両手で顔を覆うった。
「君は見たところサラリーマンのようだが、営業職か何かかな?」
「ああ、はい、まあ…」
「なるほど」
妙に納得した様子で席を立った鮫島は、脚の長いカウンターチェアにチョコんと座った大野の周りを、グルリと一周回ると、大野のくたびれたスーツの襟首を指で摘んだ。
「君が何故最下位ばかりなのか…、それは君のその覇気のない風貌と、この安っぽいスーツのせいかもしれないな」
「は、はあ…、そう…ですか…。っていうか、俺、帰っても良いでしょうか?」
自身が誘拐されたことを忘れているのか、それとも最初から理解していないのか、大野がボサボサの髪を掻きながら、ふにゃんとした顔で笑う。
慌てたのは翔太郎と健太だ。
これ以上の誤算が重なれば、計画は失敗に終わり、当然報酬も受け取るとことは出来ない。
二人はどうにかして大野を引き止める必要があった。